「サラの柔らかな香車」の感想

橋本長道氏の将棋小説「サラの柔らかな香車」を読みました。

作者が元奨励会1級という経歴なので将棋の知識に関しては非常に豊富ですし、対局シーンは緊迫感があり非常に面白いです。まあちょっと小説的な嘘は混じってますが・・・ストーリーはシンプルなので、囲碁を知らなくても「ヒカルの碁」を楽しめたように、将棋を知らない人でも楽しめる小説になっていると思います(多分)。

テーマは「天才とは何か」でその答えは小説の終わりにきちんと示されて終わります。若干きれいごと・・・のような感じもしますが、小説の中に出てくるある登場人物がエピローグで報われるというラストを用意することで、その答えを納得させる構成は上手いなと思いました。ちなみにこの登場人物のエピソードはこの小説の中で個人的にはハイライトでした。あのシーンは痛々しくって読んでて寒気がしましたよ・・・

ちょっと読みにくいと思ったのは語り手が誰かということです。現在進行中の出来事として女流名人戦第5局が行われていて、そこに橋元という将棋ライターが連載したサラについての原稿がカットバックで挿入されるという構成になっています。「女神たちの肖像 第1回〜」→女流名人戦→「女神たちの肖像 第2回」→女流名人戦というふうに。最初に読んだ時はこの構成に気づかず、誰の視点なのかよくわからないまま読み進めてしまいました。まあわからなくても読めるんですが、この辺はもう少し小説内ではっきりしたほうがいいのかなと思いました。

全体的な不満としてはページ数の問題なのか登場人物のエピソードが少なく、読んでいて物足りないと感じるところでしょうか。色々面白そうなキャラクターが出てきて何かを起こしそうなんですが、紹介だけで終わってしまう感じ。サラの特殊能力についてもわかるようなわからないような・・・まあこのキャラクターについては曖昧なところがミソなんでしょう。特殊能力とはいえSFの域までは行かないところがうまいバランスだなとも思いました。

正直表紙の美少女とタイトルを見て何か別の種類の小説かと思いましたが、将棋ファンでも十分楽しめる将棋小説でした。むしろ将棋ファンが一番楽しめる小説・・・かもしれません。橋本氏には今後もこういう将棋小説を書いていって欲しいですね。将棋世界で連載とかどうすか?(思いつき)

サラの柔らかな香車

サラの柔らかな香車