後藤元気「将棋棋士の名言100」の感想

将棋棋士の名言100―勝負師たちの覚悟・戦略・思考

将棋棋士の名言100―勝負師たちの覚悟・戦略・思考

早速読んだ。素晴らしい。おすすめです。

棋士の名言の解説とその棋士のエピソードがエッセイ調で書かれている。文章には筆者の将棋や棋士への愛情があふれていて、ユーモアもあって読みやすく面白い。また観戦記者ならではの独自情報も豊富。現役棋士(特に渡辺竜王)のエピソードには身近で見たであろうネタが盛り込まれていて楽しめる。
名言のチョイスもユニークで、有名なものから意外な棋士の発言まで幅広い。ただ名言とは言っても人生訓のような意味での格言だけではなく、将棋ファンが喜ぶような棋士の面白い名言も多い。そういう意味ではこれは一般人向けというより将棋ファン向けの本だとは思う。一応用語解説や脚注で将棋を知らない方にも読めるように工夫されている。図面を使った手の解説は無し。

見開き2ページに一節の場合、名言ページのスペースがかなり開いていて、立ち読みでページをめくった時に手抜き本じゃないかと不安に思ってしまったのだが、読んでみると情報量は意外と多く、脚注や棋士紹介などの説明文にも細かく情報が記載されていて十分なボリュームに感じられた。自分のようなそこそこの知識のファンはもちろん、歴戦のファンが読んでも納得できる中身の濃さではないだろうか。
唯一気になったのは写真が少ないこと。羽生谷川中原大山升田など超有名どころは写真があるのだが、他のほとんどの棋士は写真が無く、ここは残念に思った。名言がメインとはいえやはり小さくとも各棋士の写真は欲しかったかな。

巻末の将棋史年表も素晴らしい。まだあんまりちゃんと読んでないけど・・・かなり細かい仕事だと思う。年表が本に取り上げられた名言と関連づけられているところも丁寧で感心した。すごく勉強になるので、これは将棋文化検定の前に出すべき本だったんじゃないかなあ。名言から浮かび上がる棋士の思想、人柄、将棋のドラマが楽しめる良い本でした。