ニコ生「『将棋』をビジネスとして考える」の感想

田中寅彦×山崎元 「激論! 頭脳の格闘技『将棋』をビジネスとして考える」

議論の適当な要約。発言全部ではありません。間違っているかもしれません。

要約

山崎 棋士の収入が増えれば将棋界全体が活性化するのではないか。

田中 棋士はお金のためにやっていないのが大半ではないか。ただ将棋が面白いから、好きだから。だから経営は下手。

山崎 将棋界の規模は大きいほうがいいのではないか。

田中 (あまり関係のない話を始める)棋士になった経緯の大変さを語る。羽生ブームで将棋界が金銭的に豊かになり、イメージも変わる。名人誕生400年の話。将棋の凄さを熱く語る。

山崎 将棋ファン1200万、囲碁600万。日本将棋連盟をひとつの会社と見ると、囲碁に比べて経営規模が小さい。例えばスマホでは将棋のコンパクトさが有利。利点が多いがそこをうまく生かしているか。

田中 話の腰を折り、携帯モバイル中継の宣伝を始める。

山崎 会社として見た場合、日本将棋連盟の経営状態は?

田中 公益社団法人棋士を会員として扱う。組織本来のあり方としては生活の手段ではない。スポンサーの歴史の話に。タイトル戦の話に。

山崎 タイトル戦の収入は全体の収益の何割?

田中 6〜7割。ほとんどの収益はタイトル棋戦から。

山崎 棋士は全部で162名。棋士の真ん中ぐらいの収入は?

田中 上は億を超えている。下は2〜300万ぐらい。計算はしていないが平均は5〜600万程度。

山崎 その収入ではプロを目指す人が少なくなるのでは?

田中 指導の仕事は増えている。

山崎 新聞社の経営が厳しくなっていった場合、紙の新聞が衰退しネットに移行していった場合、そういう変化が生まれた場合どう対応するか。また羽生世代、スターが高齢化する中、魅力を提供できるか。今何らかの投資をしてファンを獲得し、積極的に経営する時期ではないか。

田中 日本将棋連盟は銀行から借り入れできない。寄付は募れる。税制で優遇されている。日本将棋連盟の使命について、東日本大震災の被災地での活動の話。囲碁棋士が多い。囲碁棋士からすると棋士の数を抑えられる順位戦はうらやましいはず。新聞社の経営が大変ではあるが、(文化の最後の砦として)残してもらっている。タイトル戦にタイアップする企業は増えている。紙の新聞は無くならない。

山崎 新聞だけに頼るというのは盤石ではない。

田中 ええそれはわかっています。

山崎 将棋会館の話。現状は非常に狭い。例えば別会社を作って、新しい将棋会館を作ってもらう。そこに日本将棋連盟は出資できるのか。

田中 基本は無い。

山崎 支店を作るような話は?

田中 以前からそういう話はあった。囲碁の会館は広い。あの広さの建物は効率が悪い。将棋会館を広くしていたら今頃潰れていたと考えたので反対した。商売が下手。独立せず行政機関の中に入るのが正しいのではないか。

山崎 公益社団法人化が普及の妨げになっているのでは?

田中 子どもスクールの話。赤字だったので月謝を上げた。値段は関係なかった。順調に拡大中。将棋道場も改革中。

山崎 例えば食事やお酒を飲みながら将棋を楽しむ場所を作ったりは?

田中 そういうものを求めるお客がいることはわかっている。以前タイトル戦をまわるツアーなどがあったが、それを連盟がやるのは筋が違うのではないかと思っている。

山崎 そういうツアーを将棋連盟がやってはいけない?

田中 やっていけないわけではないが、商売が下手。棋士は社会のことに不得手。ツアーの企画であれば旅行会社が主導して、日本将棋連盟はそこにライセンスを与える形が望ましい。

山崎 どっかと構えて向こうから美味しい話がやってくるのを待つだけではビジネスとしてはじれったい。公益社団法人の本体と別の組織を作るべきでは?

田中 北尾まどかの「ねこまど」の話。「ゴロゴロ将棋」には日本将棋連盟公認のライセンスが与えられ、印税が入る。将棋ウォーズの話。餅は餅屋。棋士は商売はダメ。将棋を好きな人がそれを活かして商売にする。周りに期待。

山崎 例えば教室のスペースの拡充やプレミアムサービスなど、ビジネスを棋士が取り組む体制にはなっていない?

田中 棋士は食えなかったら何かやります。

山崎 (苦笑しながら)下手に食えてるのがいけない。

44分頃

山崎 話題を変えて、コンピュータ将棋の話。相手が強ければそれが何であろうと戦うのが将棋道だと思う。しかし戦いを避けている。それはどうしてか。

田中 それは新聞社のため、棋戦契約の秩序を守るため、いやいや違う、どう言ったらいいんだろう。

山崎 棋戦の価値が落ちるため?

田中 そうではない。歴史的イベントの演出のため。

山崎 例えばNHK杯にコンピュータが出ればどうなるか。

田中 それはほとんどコンピュータの勝ち。棋士が勝つにはコンピュータを研究する必要がある。例えば羽生が新聞棋戦を一年休んで研究してもいいなら戦ってもよい。

山崎 コンピュータを使いながら指すアドバンスド将棋などは?

田中 それはやりたい。将棋メガネを作りたい。序盤メガネ、中盤メガネ、終盤メガネ。

山崎 教育にコンピュータを導入するのは?

田中 将棋ロボットがいい。お辞儀をする、「負けました」と言う。

山崎 コンピュータを使ったトレーニングプログラムを作るためにお金を出すか? 研究開発部はあるのか?

田中 大した予算はではないがITを使う部はある。積極的には行われていない。外圧があれば動く。

山崎 現在のプロの対局の持ち時間は長すぎるのではないか? 順位戦の組み合わせの問題は?

田中 問題意識はあるが、議員定数改革のようなもので変わらない。外部の意見が反映される組織になる必要がある。待ってて下さい、徐々にそうなっていく。ファンの意見も交えた検討会も考えている。

山崎 サービスを開発する組織が必要では?

田中 公益社団法人は基本的に利益を上げない。事業には大義名分が必要。(棋士である会員の?)意見の集約も大変。名義使用料で稼ぐほうが良い。

山崎 棋士が別会社に所属する形は?

田中 以前それを提案して理事選に落ちたことがある。

山崎 普及予算はどう使われている?ルールはあるのか。海外普及のための渡航費用は出るのか。

田中 渡航費は出ない。普及用員の生活費がまず普及費。海外普及では公文とやることが考えられる。

山崎 普及の点だけ見ても聞けば聞くほど公益社団法人が障害になっているように思えるが。

田中 戦略的に将棋を広める計画を立て、それに向かって寄付や企業への協力を求めていくのが正しいのではないか。

山崎 日本将棋連盟は構造的に経営が難しすぎる組織ではないか。

田中 それは今後の課題。将棋を使って商売をドンドンして欲しい。そこから連盟に還流していけばいい。

1時間8分頃

山崎 (日本将棋連盟はビジネスをする場として?)相当難しい組織なんだな。公益社団法人が制約になっているという印象。天才たちが戦う場としてもっと大きくなってほしい。


自分の感想

田中九段が話しすぎ。それでいて核心にはあまり触れない、またすぐ宣伝をしたりするので、番組の進行に伴い田中九段への批判コメントがすごい数に・・・

コンピュータ将棋についてもものすごく保守的なコメントを連発。というかかなりずれた認識で、メガネだとかロボットだとかの話はギャグとしてもマイナスに聞こえる。

順位戦改革の話。問題点は分かっています、待ってて下さい。外部からの圧力が必要です。どこかの国の政治家を見ているようだった。


将棋を使ってどんどん他の企業が商売をやって欲しい・・・という名義使用料の話が、田中九段のほとんど唯一具体的な話だった。
山崎氏の色々な提案はほぼ却下、棋士は商売が下手の一点張り。危機感は有るようにも思えるが、結局現状がベストという認識があるように見えた。これでは議論はかみ合わないなあ。途中にある田中九段の「棋士は食えなかったら何かやります。」という言葉が象徴的。逆に言うとまだ大丈夫なんだろう。

この番組は将棋ビジネスには可能性があるからどんどん拡大していこう、そのために日本将棋連盟の改革もしていこう、という議論が行われるものだと思っていたのだが、建設的な話は無く、田中九段が一方的に山崎氏の現状の不満に対する弁明をしているだけになってしまった。観客も言い訳の多さにうんざりしたようで、かなり辛辣な意見がコメントやTwitterで見られたようだ。

田中寅彦×山崎元 ニコニコ生放送の反応 まとめ - Togetter

それにしても田中九段がここまで保守的な思想を持っているとは思わなかった。まあ改革がこれ全て正しいなんてことは言わないが、議論を聞く限り日本将棋連盟という組織には「停滞」という言葉がしっくりくる。まあでも実際には田中九段は改革を頑張っているのかもしれない。もっと改革のスピードを上げて突き進んで欲しいと思います。
期待していた番組とは違かったが、将棋界の問題点が別な形で現れたという意味ではこの議論には価値があったと思う。もう一度別の人も交えて討論番組をやって下さい。今度はファンのコメントなども拾って質疑応答もお願いします。

2012年11月25日追記

対談の「感想戦」記事。
ビジネスとしての将棋を議論した後の「感想戦」(山崎 元) | 現代ビジネス | 講談社(1/5)

ネット観戦の普及もあって、現在の将棋ファンには「将棋を楽しむのはタダ」という感覚があまりに強い。「これだけ楽しいなら、お金を払ってもいい」という体験を提供することをもっと考えないと、将来の「将棋経済」はもたないだろう。
ページ3から引用

“「将棋を楽しむのはタダ」という感覚があまりに強い”というのはほとんどの方は現状でも割と満足しているから、という面はありそう。無料の対局サイトとTVのNHK杯とタイトル戦などの棋譜中継、ニコニコ生放送(実質有料みたいなものだが)で普通の人は十分満足しているような・・・お金払っても楽しみきれない、みたいなところはあるかなあ。
今ある有料サービスを全部タダにしてもそんなに視聴者数は増えないんじゃないか、なんて思ったりもしますがどうなんでしょう。最終的にはお金持ちが文化的な大義名分でもって支えるという昔から良くある形になるのかな・・・
今後スポンサーの撤退があった場合などを考えると、ファンによる少額の会費かなんかで今ある全ての棋戦が運営できるようになるのが理想ですかね。どのくらいの人数と金額が必要になるのか見当もつきませんが。まあこれはビジネスとは関係ない話かな。